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武富士が申立てた"DIP会社更生手続き

武富士が申立てた"DIP会社更生手続き

 昨年9月28日、消費者金融最大手の株式会社武富士(以下「武富士」という)は、東京地方裁判所に対して、会社更生法に基づく手続き開始の申し立てを行い、同年10月31日開始決定がなされた事は、世間の大きな注目も集め、記憶に新しい。

 さて、武富士の本件申立ては、弁護士小畑英一氏が申立代理人となり本件の管財人にも選任されており、申立代理人がそのまま保全管理人・管財人に就任するというDIP型会社更生手続きと呼ばれるものである。現在申立てが急増しているDIP型会社更生手続きとはどのようなものであろうか?

DIP型会社更生手続とは?

 DIP型会社更生手続とは破綻企業の現経営陣が会社更生手続き申し立て後も退陣せず引き続き経営陣として更生計画等に関与できる会社更生手続きである。”DIP”とは”Debtor in Possession”の略であり債務者が財産の管理処分権を継続して保有する事を意味する。

 従来の会社更生手続きでは、現経営陣は総退陣し、申立代理人と異なる管財人弁護士が再建計画を策定するものであったが、DIP型会社更生手続きにおいては現経営陣も引き続き更生計画に関与し、申立代理人である管財人弁護士とともに再建計画を策定し、実行する事が出来るのである。

法改正では無い!~東京地方裁判所民事8部の提唱によりスタート~

 DIP型会社更生手続きは2009年より東京地方裁判所民事8部門(商事部)で運用がスタートしたが、実は法改正による登場ではない。東京地裁民事8部自らが会社更生手続きの利用を促進すべく、運用の変更を提唱した事が発端となっているのである。

 そもそも現行法、2002年制定の新会社更生法の下でも、現経営陣を管財人に任命するDIP型の運用も法制度上は可能であった。しかし実務上は現経営陣を総退陣させ現経営陣以外の第三者を管財人に選任する従来型の運用が続いていた。この為、経営権の移譲を伴い、また再生計画実施までに長い時間が経過し、その間に資産劣化や事業劣化が起こる可能性がある会社更生手続きは会社経営陣には好まれず、同じ再建型手続きである民事再生手続きに比べ、利用件数が低迷していた。

 そこで東京地裁民事8部は自ら運用の変更を提唱し、新会社更生法の下で時代に即した利用しやすい会社更生手続きとして、DIP型会社更生手続きの運用をスタートさせたのである。

DIP型更生手続きのメリット

 DIP型会社更生手続を一言でいうと、会社再建を目指す経営者にから見て『民事再生手続きと会社更生手続きの良い所取り』である。

ここで民事再生手続きと会社更生手続きの概要を確認してみよう。

 民事再生手続きは2000年に施行され、現経営陣がそのまま再建計画に携わりつつ、企業の早期再建を目指す会社再建手続きであり、なんといってもその迅速性、手続きの簡素性が大きな特徴である。反面、スポンサー企業への事業承継が前提となる事から、再建はしたもののスポンサーに吸収され旧会社の形(旧経営体制を含め)が残らない可能性がある。また担保権のついている債権は、再生手続における債務軽減の対象にならないので、担保権は再生手続が行われていても、実行される事になる。

 従来型会社更生手続きは大企業を対象として想定した会社の再建手続きであり、債権届出のない債権を失権させる効果や更生手続きがあらゆる手続きに優先し、担保権租税債権も更生手続きの中に取り込まれる効果が生ずる等、会社再建に向けて強力な法的効果が生じる反面、その規模の大きさから手続き開始までの期間が長期間に及び、従前の会社経営に熟知した経営陣が総退陣する事も相まって、新経営陣が事業を引き継ぐ間のタイムラグ、業務停滞から生ずる資産劣化や事業劣化等の甚大な損失が発生する可能性がある。

 DIP型会社手続きにおいては、従来型会社更生手続きの経営陣の総退陣及び手続きの長期化から生ずる再建会社の損害の防止等を考慮し、現経営陣が退陣せずに更生計画等に関与でき、その手続きも従来型会社更生が通常1年程要するのに対し、DIP 型では約6ヶ月程で更生計画が認可されるという、民事再生に匹敵するスピード感ある更生手続きに変貌した。企業継続性を目指すゴーイング・コンサーンの理念にも即した手続きと言えよう。

 以上のように民事再生手続、従来型会社更生手続とDIP会社更生手続きのメリット・デメリットを比較すると次の表のようになる。

  民事再生 従来型会社更生 DIP型会社更生
再建方法 事業承継による(スポンサー必須) 会社再建による 会社再建による
経営陣 留任可能 退陣 留任可能
手続き 早い 遅い 早い

DIP型会社更生手続きを利用する為の4要件

 このように現経営体制を維持したまま、迅速な会社更生手続きの実現が可能となるDIP型会社更生手続きだが、いかなる要件でもその利用が認められるわけではない。
東京地裁民事8部はDIP型会社更生手続きを利用する為の要件として、次の4要件を掲げている。

  1. 現経営陣に不法行為等の違法な経営責任がない事
  2. 主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していない事
  3. スポンサーとなるべき者があるときは、その了解がある事
  4. 現経営陣の経営関与によって会社更生手続きの適正な遂行が損なわれるような事情が認められない事

経営者のモラル、管財人、監督委員・調査委員のコンプライアンス意識が課題

 これまでに見たとおり、DIP型会社更生手続きは企業が倒産した場合の社会的影響の大きさに鑑み、会社更生手続きの枠組みの中で、破綻企業にとって、ひいては社会的にも最適な会社再建の1つのオプションとして、現経営陣を存続させたままでの会社再建を目指すものである。我が国の経済の再生にも拘る社会的な手続きでもある以上、モラルの低い経営者が自己保身の為にDIP型会社更生の手続きを利用するような事があっては絶対にならない。

 このようなDIP型では現経営陣から依頼された申立代理人弁護士がそのまま保全管理人・管財人に就任する事になるが、企業の経営陣側の代理人が保全管理人・管財人となるので、従来型の会社更生手続き以上に、高いコンプライアンス意識が管財人弁護士に期待される。企業の経営陣側の代理人といえども、裁判所が選任する会社更生法上の「管財人」である以上、中立公正な立場から管財人の職務を全うする必要がある事は当然で、財産評定及び調査報告義務(会社更生法83条、84条、調査権77条等)や各種否認権の行使(法86条等)役員責任等査定手続き(法100条等)を適切に行使し、中立公正な立場から管財人の職務に当たる事が要請される。

 また経営陣の続投の可否の調査や再建計画の遂行等の手続きの妥当性・適法性を監督する為、新たに設けられた「監督委員兼調査委員」の任務にも適正なDIP型会社更生手続きを実現するにあたり期待される役割は大きい。

管財人は弁護士小畑英一氏、監督委員兼調査委員は弁護士須藤英章氏

 この度、武富士の会社更生手続きは申立代理人弁護士小畑英一氏によって東京地方裁判所民事8部にDIP型会社更生手続きとして申し立てられ、同氏が保全管理人・管財人に選任された。そして監督委員兼調査委員には弁護士須藤英章氏が就任した。

 管財人弁護士小畑英一氏は、本件に先立ち申立てがなされた事業者金融会社、株式会社ロプロ(旧日栄)の会社更生手続きでも本件同様更生管財人を務め、また同じ事業者金融会社、株式会社SFCG(旧商工ファンド)の破産事件、日本航空の会社更生事件、建築構造偽装問題で話題になった株式会社ヒューザーの破産事件等の管財人代理を務め、更には日弁連倒産法制委員会委員を務めるなど、大型倒産事件で活躍する事業再生・倒産事件に精通した弁護士である。

 一方、監督委員兼調査委員弁護士須藤英章氏は倒産法を専門とする学者であり、またスルガコーポレーション、東京テレポートセンターの民事再生事件では監督委員を務め、更には日弁連倒産法制委員会委員長を務めるなど、倒産事件に精通した学者であり弁護士である。

 倒産法及びその実務に精通する両氏の関与する同更生手続きがいかなる終結を迎えるのか注目したい。(武富士の債権届出期間は2月28日まで)

速報
<スポンサー企業が5社に絞り込まれる。>
1月11日にスポンサー企業が国内勢Jトラスト、東京スター銀行、海外勢サーベラス、TPGキャピタル、韓国消費者金融A&Pファイナンシャルら5社に絞り込まれた。
2月末に各候補からの事業計画案の提出を受け、最終的に1社が優先交渉権を獲得する事になる。最終決定は3月末になる見通し。
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